新卒でマーケットエンタープライズグループ(以下、ME)に入社し、1年目で農機具買取の新規事業を立ち上げ、そして1年半でヤフオク!販売実績No.1へと導いた伊藤香純。
前回のインタビューでは「ME初の女性のグループ会社社長を目指す」と語っていた彼女だが、新卒5年目を迎えた2020年4月には新しく設立された株式会社UMMの取締役に就任。MEとしては、女性初の取締役となった。
グループ会社取締役に就任した今、彼女はどんな景色を見ているのだろうか。今回はUMM設立の背景から取締役としての苦悩、また彼女自身が見据えているビジョンについて語ってもらった。
※組織名、肩書きは公開当時のものです。
―― あらためてUMMの事業内容や設立の背景を教えて下さい。
UMMはUsed Machine Marketを意味しており、国内のみならず海外にも日本の優良な中古農機具を提供するためのマーケットプレイスを構築するという想いが込められています。全国の農機具店累計約750店と約5,000人の農家会員数を有する国内最大級のプラットフォーム「中古農機市場 UMM」を運営し、総取引数約20,000件の取引実績を誇っています。
設立の背景としては、2017年2月より『農機具高く売れるドットコム』がスタートし、そこから徐々に売上を伸ばしていくことができ、ME内でも農機具事業が一成長事業という位置づけに至りました。
一方で、自社の展開だけではなく、さまざまな事業者の皆さまと一緒に課題解決をしていく領域が増えてくることが見えてきました。例えば、農機具店の方は農家の方と近い距離で取引をされることが多く、海外へ展開するには一事業者だけではハードルが高いことが課題です。
まずは、そのような課題解決の一端となるよう、MEの既存事業であるリユース事業や海外向けに農機具を展開するMEトレーディングで培ったノウハウを、新たなマーケットプレイスで提供することにしました。農機具業界の最適化を図れるようにと、誕生したのがUMMです。
そして、さらなる事業成長をしていくためにどうするか、ということで農機具の海外輸出、そして国内の農機具プラットフォーム運営という二軸での展開に着手しました。
海外輸出領域としてMEトレーディングを、国内のプラットフォーム領域をUMMが行うという棲み分けで2020年4月に2社が設立されました(MEトレーディングの説明は後述)。
―― 今回、伊藤さんが取締役になられた経緯を教えて下さい。
かねてから私は “MEで女性初のグループ会社社長になる” という目標を伝え、チャレンジできるものには積極的に手を挙げて経験をつんできました。MEが、コングロマリットグループを目指すうえで、さまざまなポジションや裁量権をメンバーに任せていく方針があるため、これまでの結果や行動から、お任せいただけることになりました。
ただ、「取締役をやってみないか」と代表の小林から伝えられたときには、実はすぐに「やります」と答えたわけではなく、なぜグループ会社にする必要があるのかを真っ先に考えました。
というのも、MEの一事業としてではなく、グループ会社として運営していく必要性を自分の中ではっきりさせたかったからなんです。
MEはいまや東証マザーズ上場企業であり、グループ会社やメンバー数も増えてきたことによって、ルールや仕組みなど整えなくてはいけないことが増えてきています。やはり母体が大きくなると動きづらい部分がでてくるため、グループ会社として機動力を高めて展開していくことで、スピード感をもって農機具事業を伸ばしていけるのではないかと。
必要なときに必要な動きが取れるように、ということで新設会社としてUMMが誕生しました。
―― UMMが農機具プラットフォームで目指していることは何ですか?
現段階での目指す先は、日本を代表するプラットフォームを構築することです。実家が農家を営んでいたこともあり、使用されていないトラクターが放置されている現状を目の当たりにしていました。というのも農機具は、物理的な問題として運搬面での取引が難しいため、流通させるにあたりさまざまな問題が発生します。
そういった問題を一つひとつ改善していくことで、新規就農者が安心して農業を始めることが出来るだけでなく、離農された方が大切に使用されてきた農機具を必要な人の元へ引き継がれていくような、そんなプラットフォームを作りたいと思っています。
またグループ会社であるMEトレーディングと連携し、国内の農機具を海外へ流通させる世界的な売買のプラットフォームを構築することも視野に入れて進めていきます。MEトレーディングは、会員制の越境ECサイトを通じて、中古農機具を世界約80各国へ向けて輸出している国内最大級の中古農機具貿易商社です。
日本各地の農家や農機具店の方と取引があるUMMと、海外向け輸出を行っているMEトレーディングが連携し、両社の強みを発揮することで国内だけにとどまらないようにしていきたいと考えています。
そして、このコロナ禍で農機具事業の会社を2社立ち上げたというのは、MEとしても「国内外の農機具流通をMEで展開すべき」という意思の表れ。
中古農機具の流通シェアを拡大するというのは簡単なことではありませんが、実現可能性が見えているため、そのゴールに向かって突き進んでいきたいと考えています。
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―― 取締役に就任して6ヶ月が経ちましたが、振り返ってみていかがですか?
目まぐるしく変化していった半年だったなと感じています。現在は少人数のため、役員として管掌する領域は、当然広くなり、売上管理はもちろん、採用を含めた管理業務からメディア運用、法人アライアンスなど。そして現在はプラットフォームの開発がメインのため、開発に関してもプロジェクトオーナーとしての責任を担っていたりと、全般を見ています。
ただ、大変というよりかは、面白いなと思えているんです。日々のルーティン業務も大切ですが、いまは中長期な視点を持って動かなくてはいけないことが多く、新しい発見があるので毎日新鮮に過ごしています。
会社が私を取締役に就任させたのは、これまでの実績だけではなく、やってくれるだろうというポテンシャルへの投資だと思っています。そのため、抜擢していただいた以上、早く期待に応えられるレベルにならなくてはと思い、インプットの量は格段に増えました。
特に開発領域におけるプログラミングや集客領域においてのSEOやSNSのマーケティングなど、アウトプットすべき領域が増えたため、インプットしながら日々実践をしています。
また開発は、オフショア開発拠点であるベトナムのグループ会社が行っており、現地メンバーとコミュニケーションを取るために、英語も学んでいたり。いうなれば、一生泳ぎをとめないと言われているマグロのようです(笑)
▼ベトナムオフショア開発拠点に関する記事はこちら。
―― この半年で難しかったことは何かありますか?
やはり開発に関しては、知見があったわけではない上、コミュニケーションでは言語の壁もあり、難しさを感じています。
もちろん私以外にPM(プロジェクトマネージャー)を担当しているメンバーもいるのですが、最終的には私がジャッジしなければいけないケースが多く、理想としていたものができずに、もどかしい思いをしたこともありました。
しかし、そこから自分で1から理解することの必要性を改めて感じるようになりました。担当領域だけではなく、大枠から細かいところまで、すべてを理解してから展開していくことが重要だと感じます。
社内には各分野のプロフェッショナルがたくさんいますから、聞けばもちろん教えてもらうことができます。しかし、自分で1から理解して進めるのと、はじめから100を教えてもらって進めるのでは、ぜんぜん違う。
応用が効くようになりますし、スキルの幅が広がっていく上、開発においても、連携スキームを作ることができるなと。そのため自ら学ぶことは今後も大切にしたいと考えています。
悠長なことを言ってはいられませんが、いまは自分の中での投資期間だと捉えています。事業が成長するためにどうすべきか、ユーザーのために最高のサービスにするためにはどうすればいいかを考えて、投資をしていく期間だなと。
―― 現在、伊藤さんが掲げるミッションはなんでしょうか。
農家や農機具店の方にとって最適な選択肢の一つとなるような国内の農機具プラットフォームを構築した上で、世界的な農機具プラットフォームを実現するという目標に対して、最も実現可能性のある選択をするための材料集めだと捉えています。
当然、私一人が戦略についてジャッジをするわけではないため、グループ全体の方針を決めるにあたり適切に判断できるための材料が必要です。
そのためにも、どこに課題があるのかユーザーから直接ヒアリングすることで問題を可視化したり、ビジネスモデルが似ている企業の方とお会いし、過去にどのような施策を展開し、結果どうなっているのかなど調査しています。
視座を高めながらより多くの課題を見つけ、一つひとつ解決をすることで、よりよいサービスを作りたいと考えています。
―― 前回のインタビューでは「他の女性メンバーも活躍できる環境をつくっていきたい」と語られていましたが、MEグループ初の女性取締役となられたいま、どのように感じられていますか?
女性初の取締役になったとは言え、私が唯一女性社員の中で第一線で活躍しているとは思っていません。むしろ領域が違うだけで、みな第一線で活躍しているなと。実際、年に一回行う社内のアワードでも女性メンバーが多くランクインしていたりと、社内でも女性の活躍が目立つようになりました。
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ただ、やりがいと共に女性初の取締役としての責任も感じています。やはり、これからも役職に就く女性メンバーが増えてほしいと思いますが、経営層が任せようと判断するためにも、まず私が結果を出すことが重要だなと。そして私のようになりたいと思ってくれるメンバーが増えれば嬉しいなと思います。
―― また前回のインタビューでは「1つの事業をしっかりと成功させたい」とも語られていましたが、その当時と今で見えている世界はどのように変わっているのでしょうか。
今回UMM設立のタイミングで、『JUM 全国中古農機市場』の事業譲受が行われましたが、実は前回の取材時にはすでに社内でそういったM&Aの動きはあったんです。しかし私の中では1年以上先のことだろうと思っていて。
つまり、私が思い描いていたよりも1年早まったので、1年分を巻き返すくらいの想定以上の自己成長をしないと、M&Aが無駄になってしまう。もちろんプレッシャーは感じますが、守りに入ってしまってはグループ会社を設立した意味がないので、攻めの姿勢を持って突き進まないといけないなと。
そのため、前回は「こうなったらいいな」「こうしたいな」と思っていたことが、いまは実現可能性のある、現実的なビジョンを描いています。目標に対してのステップがより明確になっていると思っています。
そしてこの半年を通じて、挑戦するのに早いも遅いもない、ということに気づけましたし、高い目標に対して、達成するのだという明確な強い思いと、それを言葉にすることの重要性を感じています。
また、周りへの感謝も忘れてはいけないなと感じています。いままで以上に関わる人が増えてきて、私はそうした人に支えられつつ、学びながら、いまここに立っているのだと思っています。若い自分に任せてくれているという、会社からの期待、そしてまわりからの期待に応えたい。そのためにも早く行動できる知識、スキルを身につけて、事業に貢献したいと考えています。
―― 最後に、今後の展望を教えて下さい。
まず事業に関しては、「農機具の二次流通は国内外問わず、マーケットエンタープライズグループだよね」と言われるように進めていきます。
UMMはいま取引手数料を無料で、MEトレーディングでは海外へも輸出できるということで、ユーザーメリットがあるグループ事業であると考えているため、引き続きユーザーや業界のニーズに沿った事業をつくっていくことで、道は切り開かれると考えています。
今はMEトレーディングを通じて海外へ向けて農機具の流通を行っていますが、いずれは、UMMを通じて、海外の方が農機具を直接購入できるようなスキームをつくっていきたいです。
また個人としては、グループ初の女性取締役として事業を任せてもらうことが、1つめの到達点でした。2つめの到達点としては、世界進出すること。
第二次到達点のあとは、複数事業を担う事業部長になりたいと考えていますが、まずはUMMで達成するべき目標に向かって邁進していきます。
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